は し が き
IT(情報技術)革命により,日本の内外の環境が急加速で変化している。国際化や国際的なコミュニケーションは国民一人ひとりにとって日常的な現象となり,英語が国際語となっている今日でも,わが国の英語教育の実効は上がらず,依然として低迷を続けている。この状況が一刻も早く改善されない限り,国民の英語教育への不信感はますますつのり,またそれに伴って学校教育全般の地位が低下することが憂慮される。それと同時に,わが国が国際的に期待されている役割を果たして行くことも危うい状態である。
周知のとおり,現状を打開すべく英語教育を含めた改革の議論がなされてきている。「21世紀の日本の構想懇談会」,「英語指導法等改善の推進に関する懇談会」,「教育改革国民会議」からは,英語の位置づけや指導方法の改善や制度の見なおし等を含めたさまざまな提言が出されてきた。公教育で行われている英語教育の質を高め,学校教育に対する信頼を回復することが,大きな目標となっていることは言うまでもない。
このような喧しく議論されてきた数々の問題の中でも,なかんずく現在の英語教育の改善に直接係わる要因として,英語教員の資質向上と教員を取り巻く環境に問題があると捉え,それを改善することが最重要課題であると考えた。そこで,英語教育改善に対する強い使命感と危機意識を共有する英語教員が集まり,平成11年4月に「英語教員研修研究会」(Teacher Education Research Group)を発足させるに至った。
毎月1回の定例会議を持ち研究を重ね,平成12年度には教員の実態について予備調査を実施した。その結果,58.7%の教員が「授業準備以外の研修は行っていない」という実態が判明したことから,あらためて現職教員の直面している厳しい現実が確認されたわけである。そこで本研究会では,その現実を踏まえ「教員の資質向上の方策,手順,評価法」を中心テーマとしてフィールドワークを含めた実証的な研究を行う目的で平成12年度の科学研究費基盤研究(B)を申請した。そこで認められたのが「現職英語教員の教育研修の実態と将来像に関する総合的研究」である。本研究は平成12年度から平成15年度までの4年間継続されるもので,その研究目的は次の4点である。
(1) 都道府県で行われている「5年次及び10年次教員対象の研修」に参加した教員にアンケート調査を実施し,彼等の研修と授業に対する意識調査を行う。それにより,彼等の研修を妨げている原因・理由を特定し,それを是正する方策と共に,改善研修プログラムを提案する。
(2) 各都道府県で行われている英語教員研修を主催する指導主事に
面接して,行政側から見た研修プログラムの有用性,問題点等について実態を把握する。それを基に,英語教員研修がより効果的に行われるための改善策を具体的に提示する。
(3) 海外の先進的教員研修プログラムを調査し,その先進性をわが国
で導入する可能性を検討する。調査対象は韓国,中国,シンガポールの英語担当教員対象プログラム,担当教員対象プログラム,アメリカ,カナダのESL(English as a Second Language)担当教員対象プログラム等である。
(4) 上記(1),(2),(3),(4)に基づき,わが国の英語教員を対象とした
「コミュニケーション指導技術及び英語運用力を向上させるプログラム」を作成し,同時に教科指導力を評価する枠組みを提示する。
上記(1),(2),(3)については,改善のための具体案を教育現場においてフィールドワークを行い,その改善点については達成度を測定すると共に,実行可能性も検証して行く予定である。平成12年に行った海外でのフィールドワークは(1)韓国,(2)シンガポール,(3)タイ,(4)アメリカ合衆国,(5)英国の5カ国に及んでいる。
今後3年間続く本研究プロジェクトの特色は,今年度の内容も含めて次のように要約できる。「5年次及び10年次英語教員」を対象とした組織的な実態調査は今回がはじめてである。彼等の指導技術や英語運用力に係わる設問を通して,なぜコミュニケーションを中心とした授業が実践できないのかについて現場教員との双方向的フィードバックを行い,その原因を追求する。現職英語教員の「公的研修」に関する全国調査により研修実態が明らかにされることで,研修プログラム策定者はもとより,教員にとっても有益な資料となるはずである。日本における現職英語教員の研修や指導技術の評価システムを海外の外国語担当教員の場合と比較する研究は,現在のところ先行研究が見あたらず,本研究によって国際的な貢献が期待できるものと考えている。本研究の最終目標は,各種の調査を踏まえて,現職英語教員の英語運用力向上と教科指導技術を妥当に評価する方法を打ち出すことであるが,これは現在の日本の英語教育界で最も求められているもののひとつである。
本研究の初年度である平成12年度は現職英語教員研修の問題点を指摘することが中心であった。来年度以降は,今年度の研究結果を踏まえ,さらに調査範囲を広げ,教員研修の実態を明らかにし,問題解決の核心に迫りたいと考えている。
なお,本報告書には,特別寄稿として文部科学省教科書調査官の小泉仁先生から学習指導要領の変遷に関する論考をお寄せいただけたことは幸いであった。ここに記してあらためて感謝の意を表す次第である。
石田 雅近